Hell or Heaven

~第1章・禁断の果実(5)~


ベッドに横たえられたアンジェリークは、固く目を瞑っていた。
自分がこれから行なおうとしている行為から、目を逸らすかのように。

オスカーは口づけを深めながら、素早く彼女の衣類を剥ぎ取っていく。
彼女の衣服の最後の一枚を脱がせると、オスカーは一旦唇を離し、身体を起こした。
アンジェリークの一糸纏わぬ白い裸身が、目の前にある。
ぎゅっと目を閉じ、唇を引き結び、そして両手はその身体を隠す事もなく、腰の脇の辺りでシーツを強く握りしめて震えている。
その姿はオスカーが助けてくれるという言葉を信頼し、全てを委ねてくれているという証のようでもあった。

オスカーは自分も手早く服を脱ぎ捨てると、アンジェリークの裸体に覆い被さるようにして再び口づけを落としていく。
唇を深く貪るうちに、重ねられた互いの肌が熱を帯びてくる。
それをきっかけにオスカーは唇を耳元に滑らせ、熱い吐息を浴びせながらアンジェリークの胸元を手で弄る。
「ん………っ」
触れるか触れないかのような微妙なタッチで胸元に手を滑らすと、アンジェリークの引き結んだままの唇からくぐもった吐息が零れる。
そのまま救い上げるように胸を揉みしだくと、彼女の身体が微かに震えた。

オスカーは舌をうなじから鎖骨まで滑らすと、そこで音を立てて強く彼女の肌を吸い上げた。
「んんっ!」
アンジェリークが眉根を寄せ、軽く顔を背ける。
オスカーが顔を上げると、鎖骨のくぼみの上に今つけたばかりの紅い印が鮮やかに浮かんでいた。
その印のすぐ下で、荒い呼吸と共に大きく上下する白い胸。
思っていたよりも豊かで、そしてまだ固い、青い果実のような瑞々しさ。
その頂点に控えめに存在する、淡い薔薇の蕾のような乳首。

「綺麗だ…すごく…」
オスカーは堪らずにその頂きをいきなり口に含むと、柔らかく乳房を揉みしだきながら、舌で頂きを転がし続けた。
口の中で次第に乳首が固さを増し、立ち上がりながら存在を主張し出す。
「ぁ……あっ、ん…………」
アンジェリークは声を洩らすまいと唇を噛み締めて必死に堪えながら、赤らめた顔を左右に振っている。
そんな彼女の様子にオスカーはもう一度その唇に口づけし、強引に舌を差し入れる。
怯えて引っ込む舌を激しく絡め取りながら、両の手は休む事なく乳房を弄び、その頂きを時に指先で転がしたり、摘むように引っ張りあげる。
「ふぁ……あっ、んんっ!」
割られた唇からは、耐えていた声が洩れはじめてしまう。
「そうだ…我慢しなくていいんだ。君の感じるままに、その可愛い声を聞かせてくれ……」
優しく宥めるような囁きに、アンジェリークはもはや声を我慢する事も出来ず、ただオスカーから与えられる未知の快感のうねりに身を任せた。
「はぁっ、あっ、あ……ん………」
アンジェリークの声に甘い響きが混じり出すのを確認すると、オスカーは今度はその指を下腹部に向かって滑らせていった。
細い腰のラインにそって指をごく軽く触れさせて上下させると、アンジェリークの腰が逃げるように波打つ。
そのまま指を淡い草むらに滑り込ませると、固く閉じられた両足の間が、しっとりと湿り気を帯びはじめていた。

オスカーは胸の頂きからなぞるように平らかな腹部に舌を這わせ、両手をアンジェリークの膝にかけて一気にそれを開いた。
「い……やっ!」
アンジェリークは恥ずかしそうに両手で顔を覆っていやいやするように首を左右に振っていたが、オスカーは構わず、大きく開かれた箇所に顔を近付ける。
今まで誰にも暴かれた事のないその場所は、白い肌と金の柔毛に縁取られ、その淡い薔薇色の姿をくっきりと晒している。
その入口に指をあてがうと、洩れはじめた蜜を塗り広げるように上下に動かしはじめた。
たちまち蜜が秘部から溢れだし、アンジェリークの腰が大きく震える。

「あ……は………ぁっ、だめ………」
言葉とは裏腹に、アンジェリークの身体は熱を帯び、肌が赤みを帯びて汗が滲み出す。
オスカーは蜜壺の上で膨らみはじめた小さな花芽に唇を寄せ、舌で押すように柔らかく転がしたり、ちゅっと音を立てて軽く吸い上げたりを繰り返した。
「ああぁっ!!」
その瞬間アンジェリークの体内に電気が走り抜け、大きく身体がしなる。
その背中を捕まえて強く抱き締めると、オスカーはアンジェリークの体内へと指を侵入させていった。
ひっ、と小さくアンジェリークが身体を竦ませるが、腰をがっちりとオスカーに抑え込まれ、逃げを打つ事も出来ない。
オスカーの長い指が入ってくる強烈な異物感と、わけがわからなくなりそうな強い快感。
アンジェリークの意識は既に朦朧と霞がかかりはじめ、頭の中からは余分な思考───羞恥心や、先程までの悲しみ───が全て、快感の奥へと押しやられていた。
オスカーがその指をゆっくりと動かしはじめると、もうアンジェリークの身体も思考も、激しい快感だけに支配されていった。

アンジェリークを快感の渦に導きながら、オスカーも興奮する自分自身を抑え切れなくなりそうになっていた。
今まで数え切れない程の美しい女性をこの手に抱いてきたが、いつも自分の心はどこかが覚めていて、行為に夢中になって没頭する事が出来なかった。
しかし今アンジェリークをこの手で抱きしめ、深い快感を与えている事に、自分でも信じられない程喜びを感じて夢中になっている。
もっと悦ばせてやりたいと思うのと同時に、自分も早く彼女の中に押し入りたい衝動が沸き起こり、身体が勝手に暴走しそうになってしまう。
だが、彼女は初めてその身体に男性を迎え入れるのだ。
じっくりと時間をかけて愛撫してやらなければ、痛みを軽減してやる事は出来ない。
痛みを全く無くしてやる事は不可能だが、少しでも辛い思いはさせたくはなかった。

オスカーは欲望にはち切れそうな自分自身を鎮める為に軽く目を瞑った。
そのまま挿入していた指を引き抜くと、今度はその場所に舌を差し入れる。
突然熱いものが入り込んでくる感触に、アンジェリークの身体は一瞬硬直し、そしてすぐに熱に溶かされるように弛緩していく。
オスカーは舌を尖らせて抜き差しし、大きく秘唇を舐め回した。
その間も両の手は休む事なくアンジェリークの身体中を這い回り、胸や脇腹、内股の感じやすい部分を探り当てて刺激していく。

「あ………っ、ダメ、お願い、待って………!何か、変なの………!」

その声にオスカーは顔を上げると、優しい声であやすように問いかける。
「どうした?何か、気になるのか?」
アンジェリークは目を閉じたままこくこく、と必死で頷いた。
「なんだか、お腹の中の、下の方が変なの………。熱く渦巻いてて、すっごく変な感じで、堪らないの…………」

オスカーは低い声で小さく笑い、再び草むらの中に顔を埋め直した。
「あぁっ、ダメ…っ……また、変になっちゃう………!」
「別におかしな事じゃないんだ。そのまま、素直にこの快感に身をゆだねるんだ………」
そのまま花芽を少し強く押し潰すように舐め上げると、もう今は濡れきった秘芯に指を再び埋めていく。
「はぁっ、ぁ…ン………」
最初はゆっくりと、だんだんと激しく指を抜き差ししているうちに、彼女の内部(なか)が一段ときつくオスカーの指を締め上げ、絶頂が近い事を教えている。
アンジェリークの腰が浮き上がり、額から汗が一筋流れ落ちる。
オスカーの指と熱い舌がもたらす快感が全身を駆け巡り、また下腹部の1点に戻って膨張しはじめる。

「ぁあっ、あぁ、あ…………ああぁあっ!!」
突然下腹部に溜め込まれていた快感が爆発し、頭のてっぺんや足の指先、両手の先へものすごい速度で快感が走り抜けていく。
アンジェリークの身体は足先まで大きくしなり、オスカーの指を咥えこんだ場所がびくびくと痙攣を繰り返した。

その細い身体を強く抱き締めると、オスカーは彼女の額に張り付いた金の髪を掻き分け、汗ばんだ額や頬に優しくキスを落としてやる。
アンジェリークは快感の余韻に半ば意識を朦朧とさせ、僅かに開いた瞳は、何も映していないかのように宙を彷徨っていた。

荒い呼吸で全身を大きく波打たせ、両手を大きく広げてシーツを掴み、何も隠す事なくオスカーの前に全てを曝け出している、愛おしい存在。
その姿はまるで、悪魔に生け贄に捧げられて張り付けにされた何も知らない純真な天使のようでもあった。
そうだ、俺はきっと、悪魔なのだ。
何も知らない天使を穢し、愛されてもいないくせにその身体を自分の物にしようとする。
彼女は自分の心のうちを醜いと言って泣いていたが、本当に醜いのは俺の方だ。
心の底でジュリアス様に嫉妬し、彼女への愛も隠し、何一つ自分の真実を曝け出そうとしない。
彼女を苦しみから救ってやりたいと言いながら、本当は………彼女をこの手に抱いてしまいたいだけの、欲望にまみれた醜い存在なのだ。
だが、それでも構わない。
俺は……どうしても、彼女が欲しい。

「アンジェリーク……」
オスカーはアンジェリークの唇に啄むような優しいキスを何度も落とすと、怒張する自身を彼女の溢れる蜜壺の入口にあてがった。
「最初は痛いが、我慢してくれ…………」
小さな入口を押し開くように侵入していくと、さっきまで快感の海に漂っていたアンジェリークの意識が、ものすごい痛みを伴って急激に現実へと引き戻されていく。

「あ……あぁぁっ!」
アンジェリークはあまりの痛みに身体をずらして逃げようともがいたが、オスカーにきつく抱きしめられて身動きする事も出来ない。
そうしている間にも、容赦なくオスカーは少しづつ自分自身を彼女の中へと収めていく。
「は……う………っ……」
堪らずにオスカーの逞しい背中に腕を回すと、爪が食い込むくらい強くしがみつく。

「……っ!」
背中に感じる鋭い痛みにオスカーは思わず動きを止め、一瞬顔を上げてしまったが、自分の身体の下で苦しげに眉根を寄せ、固く閉じられた瞳から涙を滲ませながら痛みに耐えるアンジェリークの姿を認めると、その涙に口づけながら再び彼女の中に押し入った。
アンジェリークは背中の肉がちぎれるのではないかというくらい強く爪を食い込ませていたが、もうオスカーはその動きを止める事はしなかった。
こんな痛みなど彼女の感じている痛みに比べたらたいした事はないと言うのもわかっていたし、それに───痛みよりも何よりも、早く彼女と一つになりたいという欲望の方が勝っていた。

きつい処女の道を押し開き、ようやくオスカーは自分の全てをその中に収めきる。
激しい陶酔感、そしてアンジェリークを自分のものにしたという満足感。
オスカーは小さく息をつくと、自分の下で痛みを堪えながら耐え切れずに涙を零す、愛おしいその存在にもう一度口づけた。
痛いだろうに一度もそれを口にせず、俺の事を信用して身体を開いてくれた、穢れなき天使、アンジェリーク。
これから至高の存在に駆け昇り、この宇宙の聖母となるべく俺から離れていく少女。
俺は………本当に彼女を、手放す事なんかできるのか?

アンジェリークの荒い息が落ち着いてくるのを認めると、オスカーはゆっくりと身体を動かしはじめた。
最初は動くだけでも痛そうだった彼女の様子が、徐々にだが確実に変化していく。
オスカーが腰を引くとアンジェリークの内部が逃がさないかのように締め付けだし、押し貫くと同時にその唇からは甘い吐息が洩れだす。
痛みで乾き始めていた場所から再び蜜が溢れ出し、中が滑らかになっていくと同時に、オスカーは律動を速めた。
力強く腰を叩き付けると、アンジェリークは頬を薔薇色に上気させながら先程までとは全く違う快感を逃すかのように、ひときわ高い声を上げる。
彼女の体内が熱く蕩け出し、激しく動くオスカー自身と溶け合っていく。
その一体感に息が出来なくなりそうな快感を感じながら、同時にアンジェリークにも再び絶頂が迫っている事を感じ取っていた。



奥まで貪るように貫きながら、オスカーは恍惚とする意識の中で僅かに残っていた罪悪感を振り捨てた。
俺はもう、彼女を手放す事なんて出来ない。
禁断の果実を食べたアダムとイブは、楽園を追われ、死んでも消えない罪を背負わされた。
この宇宙の聖母となるべき存在を穢し、この手に奪おうとする俺も、消えない罰を受けるのだろうか?
それでも構わない、俺は彼女を愛してる。
愛してる、愛してるんだ、アンジェリーク!

その瞬間、アンジェリークが白い喉を晒して大きく仰け反った。
内部が捻れる様に激しく痙攣し、その刺激と共にオスカーも最奥で精を解き放った。
痺れるような強烈な快感と共に、オスカーは彼女に愛を告げようと口を開きかけた。

だが───。

「ジュ…リアスさ…ま……」
アンジェリークは小さな声で呟くと、その閉じられた瞳から一筋の涙を零し、そのままがくりと意識を手放した。

まだ身体に残る燃えるような快感の余韻とは裏腹に、一瞬のうちにオスカーの心が凍りつく。
奈落の底まで叩きのめされて落ちていき、闇に覆われたような絶望感に襲われる。
アンジェリークは俺に抱かれながら───心はジュリアス様に抱かれていたのだ。

これが、俺に課せられた罪なのか?
彼女をこの手に抱き、奪おうとした俺への。

女王を奪う事など出来ない、その愛はお前にはないのだから───


宇宙がそう言って、俺を嘲り笑っていた。