Sweet company

7. Too Hot To Handle (2)

アンジェリークは、夢を見ていた。

夢の中の自分はひどく焦っていて、霧の立ちこめる白っぽい場所を、必死で走ってどこかに向かっている。
なんと衣服は身に着けておらず、素っ裸だ。
誰かに見られたら恥ずかしいとか普通は考えそうなものだけど、何故かそういった事は一切頭には浮かばず、ただひたすらに何かを探して走りながら、キョロキョロと落ち着かなく視線を彷徨わせている。
霧に紛れて、白いドアが見えた。ドアには何か、赤い文字が書かれている。
(あった、良かった~!)
アンジェリークは切羽詰まった表情で走り寄ると、そのドアを勢いよく開けた。

そこで、ぱちっと目が覚めた。
あれ、ここは一体どこ?

目の前に広がっているのは、真っ暗な闇。
夢の中の真っ白な世界とはあまりにも対照的で、まだ夢なのか現実なのかがわからず、急に不安が襲ってくる。
アンジェリークはじっとその闇に目を凝らしてみたが、暗いだけで何も見えてこない。
こうして暗闇に包み込まれていると、ひとりぼっちで取り残された子供のような気分にさせられる。
目がだんだんと暗がりに慣れていっても、その奇妙な不安感は立ち去ってくれなかった。
見えてくるのは覚えのない天井、覚えのない壁。
どうして私は、ここにいるの?

そろりと探るように手を動かすと、手のひらの下に暖かい体温を感じた。
規則的で力強い鼓動が耳に聞こえ、自分の身体が大きな存在に包まれているのに気付く。
途端に全ての記憶が、ぱちんぱちんと頭の中で音をたてて繋がった。

そうだ、ここは----オスカーの部屋だ。
私は彼に抱かれて、こうして彼の部屋で、一緒に夜を過ごしてたんだ----

2人は向かい合うような姿で抱き合い、全裸で広いベッドに横たわっていた。
オスカーの片腕はアンジェリークのウエストの上に軽く回され、もう片方の腕は腕枕するように頭の下に置かれている。
アンジェリークの片脚はオスカーの腰に絡まるように大胆に巻き付いており、そしてオスカーの脚も、アンジェリークの腿の間に挟まるような格好に投げ出されている。

かなり刺激的な姿で抱き合って寝ていた事になるが、不思議なくらいこの体勢が心地よく感じた。
互いの身体があるべきところにぴたっとおさまっている、そんな気持の良さ。
夢なんかじゃない。これは、紛れも無い現実。
さっきまで暗闇にひとり取り残されていたような不安は、もう跡形もない。
代わって幸せな安堵感が心にふつふつと沸きあがり、アンジェリークはその感情をゆっくりと反芻するように噛み締めた。
私はようやく、オスカーの恋人になれたんだわ-----

そんな幸福な思いに浸り、このままずっと彼に抱かれていたかったのに。
困った事に身体のほうは、そんなロマンティックには出来ていなかったようだ。
突然ぶるっと肩が震え、今すぐベッドを飛び出なさいという生理的な欲求の声にせっ突かされた。
つまり、その、有り体にいえば----おトイレにいきたくなってしまったのだ。

アンジェリークは渋々と起き上がり、オスカーに気付かれないように彼の腕からそっと抜け出す。
…なるほど、さっきの夢はこういう事だったのね。
せめてオスカーとデートしてる夢だとか、もっと素敵な夢で起こされたかったのに。
全く私って、どうしてこうロマンスのかけらもない人間なのかしら。
まあ人間だからこそこういう欲求に振り回されるんだし、現実なんていつだって案外こんなものなのよね。

はぁー、と溜息を軽く零して辺りを見回し、下着や洋服を探す。
でも暗いせいもあり、何がどこにあるのか全くわからない。
あんまりごそごそ動き回ってるとオスカーを起こしてしまいそうだし、何よりも欲求がすぐそこまで差し迫っていて、早くしないと膀胱が破裂しそうだ。
アンジェリークは服を探すのを諦めて、裸のまま急いで寝室を飛び出した。

オスカーの家は広かったが、運良くトイレはすぐに見つかった。
アンジェリークは用を足してほっと一息ついてから、廊下に出た。
(あ、そうだ!ピルを飲まなくちゃ。危うく忘れるところだったわ)
いつも寝る前に必ずしている習慣を思い出し、アンジェリークはピルの入っているボストンバッグを探してオスカーの家の中をうろついた。

(どこに置いたんだっけ…)
がちゃがちゃと目につくドアを片っ端から開け閉めし、そこでようやくハッと思い当たった。
そうだ、電話ボックスからずっとオスカーが持ってくれて…玄関で床に置いていたような気がする。
あの時は必死で彼にしがみついてたから、ハッキリとは憶えてないんだけど。

うろ覚えの記憶に従って玄関に向かう。
間接照明がうっすらと辺りを照らすその場所に、やはりボストンバッグは置かれていた。
(あったあった!)
アンジェリークは荷物に近づいてしゃがみ込むと、中をごそごそと探ってピンクのポーチを取りだした。
小さな錠剤の並んだシートを見た途端、不思議な感慨が沸き起こってくる。
…これからは、オスカーの為にこれを飲むんだ。
そう考えると、今まで義務のように飲んでいたピルが、急にオスカーとの絆を深めてくれる大切なものに思えてくる。

オスカーは避妊に関してはジョッシュと違ってキチンとした人だから、ピルを飲む必要はないのかもしれない。
でも備えあれば憂いなし、私もちゃんとしておけば、何か起こった時に対処ができる。
例えばオスカーに急に求められて、避妊具が手元になかったりとかした場合でも、チャンスを逃さず彼の求めに応じられるし。
オスカーに求められたなら、絶対にそのチャンスは逃したくない。だって彼と私の間には、まだ深い絆や信頼関係は何も築かれていないのだし、今のところそういったものを築き上げるには、セックスが一番手っ取り早い手段なのだから。

そう、残念だけど今のところは、私達を結びつけてくれているのはセックスだけ。
オスカーは私を恋人にしたいと言ってはくれたけど、私を本気で愛してくれてる訳じゃない。
本気で愛してるのは、私のほうだけ。

それでも、身体の関係だけだって今の私には大切な絆だ。
真剣なセックスには心を揺さぶる何かがあると気付いたからこそ、少しでも多く彼と抱き合いたい。
そうしていれば、いつかは彼の心の扉を開ける鍵を、見つけられるかもしれないじゃない?
オスカーはどこか、心の奥深い部分で人を寄せつけないところがある。
そんな彼の心に、少しでもいいから近づいていきたい。彼を癒して、安心させてあげる存在になれたら。
噂ではオスカーは恋人とは1ヶ月も続かないらしいから、その僅かな時間の中で彼の心を開くなど、無理な話なのかもしれないけど。
でも、チャレンジしてみなくちゃ何も始まらない。可能性は全くのゼロじゃあないんだから。

そこまで考えて、アンジェリークは自分の大胆さにくすっと笑みを零した。
オスカーと出会う前の私なら、身体の関係だけでも重ねようなんて、思いもしなかっただろう。
あの頃は自分は不感症だとばかり思い込んで、セックスの事を考えるのすら嫌だったのに。
私は女としてはどこかが不完全で、何かが欠落しているのだとばかり思っていた。
それがオスカーに恋して、彼に抱かれて-----ほんの1ヶ月あまりで、急激に自分が女として変わっていくのを感じてる。
今はむしろ彼に抱かれたくて、常に渇望しているといってもいい。

セックスって痛いものでも不快なものでもなくて、素敵なものなんだって、ようやく気付けた。
もちろんそれって好きな人が相手だからというのもあるけど、オスカーが普通の男性より経験豊富で、女性の肉体から快感を引き出す術を知っているからというのもあるんだろう。
そう、オスカーはきっと、私なんかには想像もつかないくらい沢山の女性を知っているに違いない。
それも極上の美女や、セックスの上手な大人の女性達を。

それに比べて私は、たいした経験もない。
3年も付き合った恋人がいたにも関わらず、セックスに関しての知識は、お粗末と言ってもいいレベル。
ジョッシュにされるがままで自分からは何もしようとはせず、一度オーラルセックスを求められた時なんて、本気で吐き気が込み上げちゃって、その日はもうセックスを続ける事すら出来なかった。
そんなだから男性を悦ばせる為に何をしたらいいのかとか、全然わからないのだもの------

そこでふと、ある考えに行き当たって不安になった。
オスカーは私の一体どこを気にいって、恋人にしようと思ってくれたんだろう?
もちろん私は飛び抜けた美女なんかじゃない。グラマーでもなければ、セクシーでもない。
どこにでもいるありふれた女の子で、しかもはっきり言って、田舎くさくて子供っぽい。
自分ではそれなりに可愛いところもあると思ってるし、そんなに自分を卑下してもいないけど、それでもオスカーのような人が私に目を止め、恋人にしたいと思ってくれるような要素があるとは信じられない。
セックスだって、オスカーに抱かれてようやく快感の意味を知ったくらいで、私には男性を喜ばすテクニックがあるはずもないし。
私はオスカーとのセックスを素敵だと思ってるけど、そもそも彼のほうは楽しんでくれてるのかだって疑問だわ。

考えれば考えるほど、オスカーが私の何を気に入ってくれたのか、わからなくなってしまう。
彼にとってはただの気紛れ、珍しいタイプだから目に留めただけなのだろうか。
ジョッシュだって故郷では大変な人気者で、私なんかのどこが良くて付き合ったのか、ずっと不思議に思ってた。
でもオスカーは、もっともっと不思議。
ひょっとして私は、飛び抜けて男運がいい、とか?
でもいくら運が良くても、向こうにも私に興味を持つ理由が何かあったはず。

オスカーはさっき「1人の女にこんなに待たされたのは、初めてだ」と言っていた。
もしかすると、そんな理由だったんだろうか。
どんな女性でも今までは簡単に手に入ったのに、いきなり私みたいな田舎娘に手こずって、たまたまそれが彼にとって面白かったとか-----

形のない漠然とした不安が、胃から口に向かってじわじわとせり上がってくる。
アンジェリークはそれを無理矢理飲み下し、手にしたポーチをぎゅっと握りしめた。
バカね、私ったら何をうだうだ思い悩んでいるの?
オスカーが私を恋人にしてくれた、それだけでもういいじゃない。
その理由が気紛れだろうがなんだろうが、恋人になれた、その事実こそが大切なんだから。それ以上に大切な事なんてある?
くだらない事で思い悩んでる暇があったら、少しでも長くオスカーの側にいられるよう、努力するほうが先。
たった今、ベッドに寝ている彼の元に、すぐ戻る事のほうが先決だ----------

「何をやってるんだ?」

突然背後から声が響いて、アンジェリークは「きゃっ!」と叫んで飛び上がった。
振り向くと、玄関から寝室へ向かう廊下の入口に、オスカーが立っていた。
暗くて顔や表情はよく見えなかったけど、黒っぽくてがっちりとした大きなシルエットが、廊下を塞いでいる。

「あ、あの。ピルを飲まなくちゃ、と思って荷物を探してて…」
しどろもどろに答えると、彼が笑ったような気がした。
暗かったから見えた訳ではなかったし、笑い声もしなかったけど----緊張していた空気がふっと弛んだような、そんな感じがした。

「じゃあ水が必要だな」
オスカーはそう呟くと、くるりと踵を返して廊下を歩き出した。
アンジェリークも慌てて立ち上がり、後を追う。

目が暗がりに慣れてくると、黒いシルエットにしか見えなかったオスカーの後ろ姿が、実体となってうっすらと見えてくる。
もちろん、彼は何も身に纏っていない。裸でいるのが当然だとでも言うように、ごく自然に歩いていた。
浅黒い肌は目を凝らさないと闇に溶け込んでしまいそうだけど、見逃す事なんて出来そうにない。
それくらい、彼の肉体は魅力的だった。

逞しい筋肉に覆われた広い肩、そこから逆三角形のラインを描いていく背中、引き締まった腰。長くて真直ぐな、素晴らしい脚。
彼が歩く度に身体中の筋肉が皮膚の下で滑らかに動くのが、はっきりとわかる。
全身が筋肉の塊だけど、筋トレのし過ぎで筋肉肥大をおこしているような体型ではない。
人工的なトレーニングで形作られたんではない、もっと普段からの自然な動作や運動から成り立っている、しなやかで美しい野生の肉食獣のような体型。
腰の上にある二つの小さな窪みすら、信じられないくらい完璧な造型を保っている。

いつだったか、ハイスクール時代に友達が男性の裸が載ってる雑誌を持ってきた事があって、みんなで興味津々に回し読みした事があった。
あの時は男性の裸はちょっとグロテスクな感じがして、恥ずかしい思いをして雑誌を買ってまで男の裸を拝みたいと思う女性がいる事すら、不思議に思ったものだけど。
でも、今ならわかるわ。オスカーの裸が載ってる雑誌なら、私だってどんなに恥ずかしくてもレジに走ってるはずだもの。

「そんなにじろじろ見つめられると、尻に穴が開きそうだ」
振り返りもせずにオスカーがそう言って笑ったので、アンジェリークはびっくりして心臓がひっくり返りそうになった。
私がオスカーの裸を眺め回していたのが、なんでわかっちゃったの?

でもその答えは、すぐにわかった。
オスカーはドアのノブに手をかけていたが、そのドアのちょうどオスカーの目の高さの辺りに、小さな丸い飾り鏡が嵌め込まれていたからだ。
鏡に映るオスカーの瞳が、アンジェリークを見つめてにやりと笑っている。
アンジェリークはバツが悪いのと、自分も素っ裸なのに気づいたのとで、どぎまぎと顔を赤らめながら慌てて両手で身体を隠した。

オスカーはそんなアンジェリークの様子に頓着する様子もなく、ドアを開けてダイニングキッチンへと足を踏み入れた。
男の一人暮らしには勿体無いくらいキッチンは広く、そして清潔に片付いている。
シンクや食器洗浄機がビルトインされた大きなシステムカウンターが壁に沿い、天井に近い部分には明かり取りの窓が横に細長く付けられている。
満月のせいか差し込む月明かりはかなり明るく、ライトを付けなくてもオスカーの身体が隅々まではっきり見えるほどだった。

「ベッドから飛び出たっきりいつまでも帰ってこないから、部屋の中で迷ってるのかと思って心配したぞ」
オスカーは奥の冷蔵庫を開けながら、そう言った。
「え、もしかしてオスカー、起きてたの?」
「ああ、お嬢ちゃんが目を覚まして、ぶるっと震えた辺りからな」
…じゃあおトイレに行きたかったのも、気付かれてたって事ね……。
気恥ずかしい思いが込み上げて、一層顔が熱くなるのがわかる。

「ベッドに戻ってきたらすぐに可愛がってやろうかと思って、こっちは楽しみに待ってたんだぜ?なのにあちこちのドアがバタンバタンと開く音がして、それから全く気配がしなくなった。それで心配になって見にきたら…」
オスカーはミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、片手で蓋をきゅっと捻って開けた。
そのままごくごくと半分ほど一気に飲み干してから、アンジェリークのほうに身体ごと振り向く。
「…そしたら暗がりにしゃがみ込んでるお嬢ちゃんの、真っ白な背中と可愛い真ん丸なヒップが目に入った」
彼は笑っていたけれど、その声は欲望に掠れていた。
「それを見た瞬間、俺の息子はまたしてもこうなったんだ」
オスカーが指で指し示したものに目をやって、アンジェリークは思わずごくんと息を飲み込んだ。

そこに見えたのは、欲望を剥き出しにして怒張した彼自身のもの。
天井に向かって激しくいきり立ち、筋肉の割れた腹部にへばりつきながら、青い筋を浮かせて脈打っている。
まるでそこだけが別の生き物のようにぴくぴくと小さくうごめき、意思を持ってアンジェリークに向かって雄叫びを上げていた。

あんまりじろじろと、見てはいけない。
そう思う心と裏腹に、アンジェリークの瞳は驚愕に大きく見開かれている。
あまりのショックに羞恥心すら忘れ、視線がそこから剥がせない。

オスカーのものをこうしてはっきりと見るのは、考えてみればこれが初めて。
最初のセックスは暗闇の資料室でだったし、さっき抱かれた時は、彼の身体を見る余裕すらなかったのだもの。
でも驚いたのは、彼が勃起していたからではない。
男性の勃起したものを見るのはこれが初めてじゃないし、ジョッシュの時にも何回も見ているのだから。
驚いた理由は----以前見たジョッシュのものと、今目の前にあるオスカーのものが、あまりに違うという事だ。

人間の外見がみんな違うように、男性のそこも人によって違うんだろう。
理屈ではわかる、わかるんだけどけど。
こんなに、はっきりわかるくらい違うなんて。同じペニスとは思えない、まるで別のもの。
大きさも、太さも、色も、形も。何もかも。
オスカーのものは恐ろしいくらい大きく、先が膨らんで横にくっきりと張り出している。
これが私の身体の中にさっきまで入っていたなんて。
でも何よりも一番違うのは、ジョッシュのものは直視出来なくていつも目を背けていたのに、オスカーからは目を離せなくて、こうして見ているだけで体が熱くなってくること。

急に喉がカラカラに乾き、唇が開いて呼吸が乱れる。
両手で隠した身体の奥が、敏感に反応してしまっている。
手のひらの下の乳首がぴんと立ち上がり、もう片方の手の奥では、脚の間が熱く湿り気を帯び始めている。
足ががたがたと震え、真直ぐ立っていられない。
欲望に重く瞼が垂れ下がり、瞳が半分くらいしか開かないにも関わらず、それでもオスカーの下半身を見つめ続けるのを止められない。
早くあの大きなものに貫かれ、受け止めて、激しく溶け合って1つになりたい------

「そうやってじっと見つめられると、えらく興奮するもんだな」
オスカーが大きく一歩を踏み出し、アンジェリークとの距離を縮めた。
すぐ前にある彼の体から欲望が熱波となって放射され、アンジェリークの全身に襲いかかる。
そのあまりの熱さに、皮膚の表面がじりじりと灼け焦がされてしまいそうだ。
アンジェリークは自らの身体を守るように、乳房と下半身を覆い隠す手にぐっと力を込めた。

「そして隠されると余計に、その中身が見たくなって興奮する」
掠れた声でオスカーは言って、アンジェリークの裸の身体を隠す手を、じっと見つめた。
視線がまるで、赤外線ビームのようだ。闇も手も突き抜けて、その下に隠された部分まで焼き尽くしていく。
乳首はもう痛いくらいに尖り、太股の奥からはぬるついた液体が滲み始めている。

オスカーは手にしたペットボトルをアンジェリークに差し出した。
「ほら、ピルを飲むんだろ?」
でもアンジェリークは、それを受け取る事が出来ない。
手を出したら、自分の裸を彼の目の前に晒してしまう事になる。
裸を見られたくないのではない、もうさっき散々見られてしまったのだから、今さら恥ずかしがる必要などないのはわかってる。
それより手を離してしまったら、自分が淫らなくらいに感じきっているのを、すべて悟られてしまうのが恥ずかしかったのだ。

身動き1つしないアンジェリークを見て、オスカーは「しょうがないお嬢ちゃんだな」と笑った。
さっと手を伸ばし、アンジェリークの胸を隠す手に握られていたピンクのポーチを取り上げる。
中から錠剤の入った銀色のシートを取り出し、「これを飲むのか?」と聞いてくる。
アンジェリークは無言のまま、こくこくと頷く事しかできなかった。

オスカーは錠剤を1錠取り出し、指でつまんでアンジェリークの唇の前に差し出した。
「ほら、口を開けろ」
言われるがままに、アンジェリークは口を開く。
「舌を出して」
震える舌を小さく差し出すと、オスカーが面白そうに笑いながらその上に錠剤を乗せてくれた。

舌を口の中に引っ込めた、その瞬間。
オスカーはペットボトルの水を自分の口に流し込んでから、いきなりアンジェリークにその唇を押し付けてきた。

「んんっ!」
びっくりして身体を後ろに引いたが、オスカーの腕は力強くアンジェリークの腰に回され、逆に強く引き寄せられた。
彼の唇から冷たい水が流れ込み、アンジェリークはピルごとそれを飲み込まされる。
オスカーは目を開けたまま、アンジェリークの喉がごくんと動いてピルを飲み干したのを確認すると、さらに深く口づけてくる。
空になったペットボトルが、からんと音をたてて床に転がっていった。

2人の身体は今は密着し、オスカーの固い一物がアンジェリークの柔らかい腹部を突いている。
それでも手で身体を隠したままのアンジェリークに、オスカーは少し苛立ったように口づけを解いた。
アンジェリークの瞳は既にぼんやりと焦点を失っている。

「おい、この可愛らしい手は、綺麗な裸を隠す為にあるんじゃないんだぞ」
そう言って両方の手首を掴み、一気に横に大きく押し広げる。
「きゃ…」

オスカーの目の前に、アンジェリークの裸体が晒された。
月明かりに照らされて白く浮かび上がった肌は、真珠のようにしっとりと輝き、恥ずかしさに全身がうっすらと薔薇色に染まっている。
柔らかくこんもりと膨らんだ胸、固く立ち上がって誘う可愛らしい乳首。
オスカーはゆっくりと手を這わせ、その柔らかさを楽しむように下から揉みしだく。
その手にちょうどすっぽりおさまる大きさの乳房が、動かす度に指から零れ出す。
見事にくびれたウエストは、両の手で簡単に掴めそうなくらい細い。
腰は幅がなく、やや子供っぽくも見えるが、ヒップの丸みは高い位置にあって完璧だ。

成熟しきった女の肢体ではないが、瑞々しいまろやかなラインは男の欲望を痛いほどに刺激する。
こんなに綺麗な身体をしていたのに、なぜ子供っぽいなどと思い込んでいたのか。
蕾の今ですらこの艶やかさだだ、花が開ききったらどれほど美しくなるのか、想像も出来ない。
俺の手で、この蕾みを開かせてやれたら。
ふと浮かんだその思いに、自分でも驚くほど胸が高鳴った。
男の征服欲が刺激され、闇雲な願望が身体中を駆け巡る。

オスカーは両手で彼女の丸いヒップを掴んで持ち上げ、ぐっと引き寄せた。
アンジェリークの薄い草むらの辺りに昂まったものを押し当て、ゆっくりと上下させる。
「…あんっ!…オスカー…、はぁ…、ん…」
愛らしい唇から淫らな声が洩れ出すと、オスカーの興奮も一層高まっていく。
しかしアンジェリークの腰が動き始めると、オスカーは何故かそこで動きを止め、一旦身体を離した。

「……?オ…スカー……?」
はぁはぁと息を乱しながら、アンジェリークはオスカーを見上げた。
もう身体中が痛いくらいに疼いているのに、どうして彼は動きを止めたの?
また、さっきのセックスの時と同じなんだろうか。
私1人がオスカーを欲しくて求めていて、彼は私ほどには求めてくれていない。
余裕たっぷりに私を焦らし、狂わせていく。
でも、オスカーにも私を求めて欲しいのに。同じくらい、狂って欲しいのに。
どうすればいいの?どうやれば、彼の気持を動かせる?

潤んだ瞳で見上げてくるアンジェリークに、オスカーは逸る気持を押し隠して小さく笑いかけた。
今度こそゆっくり彼女を味わおうと思っていたのに、またしても自分の思惑を無視して身体が動いていた。
少し落ち着いて、じっくり立て直さなければ。

「この可愛らしい手は、綺麗な身体を隠す為にあるんじゃない」
もう一度そう繰り返して、アンジェリークの手首を掴む。
そのまま、張り詰めた自分自身と導いた。
「…俺を悦ばす為に、この手を使ってくれ……」

アンジェリークの手の中に、脈打つ固いものが握らされる。
一瞬びくりと身体を震わせてから、アンジェリークは恐る恐るそれを両手で包み込む。
確かめるようにゆっくりと指を這わせると、その度にオスカー自身もびくんと手の中で動く。
手の中で熱がどんどん高まって、まるで熱した火かき棒を握らされているみたいだ。
熱すぎて、触っていられないくらい。なのに、指が吸い付いてしまったかのように離せない。

「…すごい、オスカーの、熱い……」
「ああ、熱すぎて、痛いくらいだ」
「痛い…?どうしたら、痛みを止めてあげられるの……?」
「そうだな…。もっと熱い場所に入れると、一瞬だが楽になる」
「もっと、熱い場所…?」
いきなりオスカーの中指がアンジェリークの脚の間に差し入れられ、秘められた口を探り当ててから、柔らかく中に潜り込んだ。
「……ここだ」

「はぁんっ!」
アンジェリークの身体が強張り、後ろに大きく反り返る。
オスカーの指が蜜を溢れださせながら奥へと侵入していく。
「思った通りだ、指が溶けそうに熱い…」
アンジェリークは両手でオスカーのものを握りしめたまま、激しく身体を震わせる。
「あ……あ……ぁ………」
「俺がここに入ると、一瞬すごく痛みが和らぐ。だがすぐにまた次の痛みが襲ってくる。今度の痛みは、もっと強い」
くちゅくちゅと音をたて、オスカーの指が抜き差しを繰り返す。
溢れた蜜が、アンジェリークの内腿をつたって膝の上まで流れている。
もうオスカーのものを握っていられなくて、彼の背中に腕を回してしがみつく。
「だからこうして、痛みをやわらげる為に動かす。動かすと楽になるが、またすぐ痛くなる。だからもっと強く、早く動かす……」
オスカーの指の動きが早まる。
「どう動かしても痛みがおさまらなくなって、限界まで達すると----いきなり絶頂が襲ってくるんだ」
「ああ、オス…カー……、あぁ、あぁ、あぁあ……っ!」
アンジェリークがつま先立ちになり、全身の筋肉に力が入る。
オスカーの指を銜え込んだ部分が、ひくひくと痙攣しながら絡み付く。
彼の背中に爪をたて、強く引っ掻いてから力が抜け、腕がだらんと下に落ちた。
オスカーがもう片方の腕で抱き止めていてくれなかったら、足元から崩れ落ちていたに違いない。

「…ぁ……ん…」
爆発の余韻が遠のき始めると、アンジェリークは無意識のうちにもう一度オスカーに腕を回して縋り付き、片足を大きく上げて彼の腰に絡めた。
その動きにつられたように、オスカーもアンジェリークの腰を両手で強く掴み、張り詰めきった一物を濡れた場所に当てがう。
そのまま一気に押し入ろうとして腕を引き寄せた瞬間、避妊具を着けていない事に気がついた。

膨らみきった先端が襞を掻き分けて中に滑り込み、そこにアンジェリークの柔らかい肉が絡み付いた。
「く……っ!」
鋭い快感にオスカーは声を洩らし、そのまま中に一気に突き入れたい誘惑を必死で振り切りながら、やっとの思いで自身を引き抜いた。
ほんの一瞬の事なのにも関わらず、オスカーの身体からは汗が滴り落ち、息が荒く弾んでいる。
薄いゴム一枚の差だというのに。生で感じた快感は、想像を遥かに超えるものだった。
このまま直にやってしまいたいという誘惑は強烈だったが、オスカーはありったけの自制心を総動員し、その誘惑を振り切った。

「…お嬢ちゃん、ベッドに戻ろう」
茫然としたアンジェリークの耳元で、なだめるように囁きかける。
アンジェリークはいきなり快感を引き抜かれ、ショックを受けて張り手を食らったような表情をしている。
「ここには避妊具の用意が無いんだ。寝室に戻ればあるから」
だがアンジェリークは、涙を浮かべて首を横に振った。

ほんの一瞬だったが、避妊具のないオスカーとの繋がりは、彼の熱をダイレクトに感じて信じられないほどの幸福感をもたらしてくれていた。
あんな一体感は、今までのセックスでも感じた事が無かったのに。
あのまま一気に貫かれ、本当の意味で溶け合いたかった。
なのに彼はすぐに身体を離し、避妊具を着けてやり直そうなんて言う。
私がさっき、ピルを飲んだのを見ていたくせに。
そう思ったら、絶望的な気持になった。
オスカーは私ほど求めてくれてはいない、そしてなにより、私を信用して無いんだ------!

「…わ、たし…は、このままの、オスカーが欲しいのに……」
アンジェリークはオスカーの前に跪くと、再び彼自身をそっと両手で包み込んだ。
愛おしげに頬をすり寄せながら、握りしめたものをゆるゆるとしごき始める。

こういう事を自分から積極的にするのは初めてで、どうすればオスカーが喜ぶのかも、本当は良くわからない。
でも、少しでもいいから。彼にも私を求めて欲しくて、狂わせたくて、必死だった。
「…お願い、オスカー……」
割れた先端から透明な液体が滲み出ているのが見えて、そこに軽く口づける。
くぐもった呻き声が頭上から聞こえ、アンジェリークは上目遣いにオスカーを見上げた。

彼は眉間にしわを寄せ、額に汗を滲ませながら、苦しげにアンジェリークの姿を見下ろしている。
その表情は苦痛を耐えているようにも見えるけど、快楽を滲ませて興奮しているようにもとれる。
魅入られたようにオスカーを見つめたまま、アンジェリークは怒張したものに口づけ続けた。

そこからどうしたらいいのかもわからなくて、ただひたすらに何度も口づけていると、オスカーが焦れったそうにアンジェリークの髪に手を差し入れて引き寄せてくる。
彼の両脚が小刻みに震え、力が入って筋肉が力強く浮き上がっている。
オスカーも、感じているんだわ。
急にそれがハッキリと伝わり、アンジェリークの身体の奥に喜びの火が灯る。
舌を小さく差し出して、先端から溢れた先走りを舐め取ると、頭を掴むオスカーの指に力がこもる。
薄苦い味がするそれを全て舐めとってから、アンジェリークは夢中になってオスカーの隅々にまで舌を這わせ、指を絡めてしごき続けた。

オスカーも今や、跪いて奉仕を続けるアンジェリークの姿に完全に目を奪われていた。
決して彼女は、技巧に優れている訳ではない。
むしろ舌使いはぎこちないし、慣れた女にありがちな、男の感じるポイントだけを効率良く攻めていくやり方でもない。
ただただひたすらに全てを舐め、しごいているだけなのだ。
だが両の膝を揃えて座り、張り詰めたものに両手を添えて半ば瞳を閉じ、愛おしそうに丁寧に愛撫を施すその姿は、まるでオスカーに祈りを捧げているかのようにも見え、とても淫蕩な行為に没頭しているようには見えない。
むしろこちらが穢れのない天使の口を犯しているかのようで、見ているだけで背徳的な興奮に覆われてしまう。

いつまでもゆっくりと舐め続ける彼女に、オスカーは頭がおかしくなりそうだった。
焦らされているかのようで、もう耐えられない。
一気に口の中に押し入り、激しく突き上げたい。
だが、そうは出来なかった。
何故だかわからないが、アンジェリークは----焦らしているのではなく、ただこういった事に慣れていないだけなのではないかという気もして、ならなかったからだ。
だがこのままでは、堪え切れなくて彼女の舌だけで爆発してしまう。

「……もう口に、含んでくれ……っ」
呻くように声を絞り出すと、アンジェリークの動きが止まった。
オスカーを見上げるその瞳には、戸惑いと不安の色が強く現れている。
その瞳を見て、オスカーは確信した。
アンジェリークは、こういった行為に経験が浅い。いやもしかすると、初めてなのかもしれない、と。

「…嫌か?無理なら、しなくていいんだ」
本当は爆発寸前で堪え難かったが、オスカーは腰を引いて身体を離そうとした。
だがアンジェリークはオスカーの腰に腕を回し、離れないようにもう一度下腹部に頬を押し当てた。
「…いやじゃない、けど……」
「…けど?」
「どうやったらいいのか、よくわからないの……」
恥ずかしげに朱に染まった彼女の頬を見た瞬間、オスカーの心が震えた。
「…心配しなくていい、全部教えてやるから」
そう言った自分の声が、期待にうわずっていた。

「歯を立てないようにして、ゆっくり少しづつ、口に入れるんだ」
言われた通りにアンジェリークが薔薇色の唇を開き、オスカーの先端を含む。
膨らんだ部分を飲み込み、少しづつ奥へと向かっていく。
「無理しないでいいから、そのままゆっくり…動かしてくれ」
アンジェリークの頭が、小さく上下する。
「----ああ、すごく、いい---」

アンジェリークは、必死だった。
頭上から聞こえるオスカーの吐息混じりの声は、今までとは比べ物にならないくらい、彼が感じているのを教えてくれている。
でも、彼のものが大きすぎて、どうやっても根元まで飲み込み切れない。
苦痛を感じるまで飲み込んでも、半分も含めていない。
アンジェリークは含みきれない部分に片手を添え、握りしめてしごいてみた。
途端にオスカーの息遣いが荒くなる。
彼も腰を小さく動かして、アンジェリークの指の動きに応えてきた。

喉に彼のものがあたり、息が苦しくて目尻に涙が滲んだが、それでもオスカーを感じさせている事実のほうが嬉しくて、止められなかった。
もっと感じて欲しくて、何度も息を継いでは含み直し、動かす速度を早めていく。
いやらしい音と共に漏れ出した睡液が、自分の顔とオスカー自身を濡らしていく。
口腔内でオスカーのものに舌を絡み付けると、彼が両手でアンジェリークの頭を抑え、身体を仰け反らせたのがわかった。

オスカーは断続的にもたらされる快感に達しそうになる前に、必死でアンジェリークの唇から己を引き抜いた。
彼女は涙と睡液でぐしゃぐしゃに顔を汚し、腫れ上がった唇ではぁはぁと荒く乱れた息をこぼしている。
その顔を見ているだけで、胸が締め付けられるような思いがした。
もう、1秒も待てない。

「…ベッドに行こう、アンジェリーク」
彼女を立たせて抱き締めると、耳元で喘ぐように囁いた。
でもアンジェリークはまたしても首を横に振り、オスカーのものを掴んで自分の下腹部に宛てがおうとした。
だがオスカーとは身長差があり過ぎて、どうやっても彼のものを脚の間に導く事が出来ない。
つま先立ちになり、片脚をオスカーの腰に巻き付けながら、アンジェリークはもどかしげに腰を振った。

「ここには避妊具がないから、ベッドに----」
もう一度そう言いかけて、オスカーはハッとした。
アンジェリークはわなわなと唇を震わせながら、涙を一杯に溜めた瞳で悲しげにオスカーを見上げていた。

「オスカーは、このままの私が、欲しくないの?私はもう、あなたの全てが欲しくて気が狂いそうなのに----」
「アンジェリーク……」
「さっき私にピルを飲ませてくれたのは、オスカー、あなたなのに。どうして…」
アンジェリークの瞳から、涙が一筋、滑り落ちた。
「……私を、信じてくれないの?」

泣いているアンジェリークを、オスカーは思わず強く抱きすくめた。
俺が彼女を信じていない?
そんなつもりはない、もちろん俺は彼女を信じている。
だが、本当にそう言い切れるのか?

今までの俺は、絶対に避妊を女性任せにはしてこなかった。
男の責任としてそれが当然だと思っていたのもあるが、相手の女性からピルを飲んでると申告されても、鵜呑みにしなかったと言うのもある。
そう、女はそう言った点では、嘘をつく達人だと決めてかかっていたからだ。
だが今まで見た限りでは、アンジェリークはそういう嘘をつくような女じゃない。
それを何度も疑って彼女を失いそうになったのも、俺が心の底では女を信じきってていなかったからじゃないのか?

よし、こうなったら腹を括ってとことん彼女を信じてやろうじゃないか。
くだらない疑いでアンジェリークを失うような真似は繰り返したくはないし、俺も彼女を信じてみたい。
それに正直いって彼女の中に、そのまま押し入ってみたいという強烈な願望もある。
たまにはこんな原始的な欲望と直感に賭けてみるのも、悪くはないかもしれない。

「落ち着け、アンジェリーク」
オスカーは抱きしめたアンジェリークの背中をあやすようにさすってから、その手を彼女のヒップまで滑り下ろした。
ひんやりして滑らかな肌触りを楽しむように撫で回し、それから両手でヒップを掴んで一気に身体を持ち上げた。
屹立するもののうえにアンジェリークの身体をまたがらせ、濡れそぼった場所を見つけて、そこに熱い液体が滲んだ先端を押し当てた。

いきなりの展開にびっくりしたように目を見開くアンジェリークに、オスカーはにやりと笑いかけた。
「…俺はお嬢ちゃんの事を、信用してるぜ」
それから深く口づけながら、ちょうどいい位置になるよう身体を小さくゆすって調節する。
次の瞬間には、アンジェリークの腰を強く引き寄せ、彼自身を滑り込ませていた。

「ああぁっ!」
アンジェリークの身体が弓のように大きく後ろにしなり、2人の唇が離れた。
襞が震えながらざわざわとまとわり付いてくる感触を、オスカーは目を閉じてじっと味わった。
潤いを帯びてざらつく肉壁を押し分けながら、じっくりと中に進んでいく。
息が出来ないほどの圧迫感と、強すぎて痛いほどの快感。
全身の毛穴から、汗がどっと噴き出す。
最奥までしっかりと自身をおさめると、アンジェリークの入口がきつく根元を締め付けてきた。
とろりと蜜が溢れだし、2人の繋がった部分から零れ落ちていく。

想像していた以上に、それは圧倒的なまでの衝撃をオスカーにもたらした。
熱く蕩けそうなその場所は、オスカーの理性も自制心も溶かしていく。
残ったのは激しい期待感と、飢えたような欲望。
その快楽に取り付かれたようにオスカーは、彼女の奥に向かってひたすらに腰を突き上げだした。

滑らかで固い異物が直接侵入してくる感覚を、アンジェリークも喜びに震えながら受け止めた。
オスカーの熱がじかに伝わって、そこから炎が広がるように体内を焼き尽くしていく。
ああ、これが本当のオスカー。彼の本当の熱。熱くて、中が火傷しそう。
でもこんな熱にだったら、焼かれて死んでしまってもいい。
オスカーが動き始めると、膨らんだ先端が自分の中を擦りあげる感覚までがはっきりわかる。

「オ…スカー…、っ……あ、…は……ぅ…」
「アンジェ…、アンジェリーク……っ」
2人は夢中になって動き、激しく身体をぶつけあった。
もうお互いの姿以外は何も見えず、お互いの声以外は何も聞こえない。

「あ…あ、オス…カー、もう……、あ、ぁ、ああぁっ!!」
アンジェリークがオスカーの肩に顔を埋め、一瞬動きを止めた。
次の瞬間には弾かれたように首が後ろに大きくがくんと倒れ、全身がぶるぶると痙攣する。

信じ難いほどの締め付けが襲ってきて、そのきつさにオスカーは思わず顔をしかめた。
目の前が急速に暗くなり、恐ろしいまでの快感が全身を圧迫するように襲ってくる。
尻の筋肉が固く強張り、そこから快感が幾重にも背骨に巻き付くように、ぞわぞわと這い上がる。
限界だ、爆発する…!
「ア…ンジェリーク……っ……!」

どくん、と躯が大きく波打ち、オスカーは痙攣する彼女の最奥で全てを解き放った。
歯を食いしばり、何度も何度も溢れ出る絶頂感に身体を震わせ続ける。
止まらない、まだ溢れている。心臓が破裂しそうだ----!
耳の中でどくどくと血が流れる音がし、目の前が赤く点滅する。
「ああ-----!」
何かに掴まらずにはいられなくて、オスカーはアンジェリークの身体をきつく抱きしめた。
喘ぐような声が自分の喉から漏れていた事すら、気付けなかった。



やがて絶頂の波が静かに去っても、2人はまだ互いの身体をしっかりと抱き合っていた。
繋がった部分から白濁した残滓が零れて、互いの身体を汚しているのはわかっていたが、今は動く事すら出来ない。
達したままの姿で、身体中の筋肉が固定されてしまったかのようだ。

痺れた頭で、オスカーは今起こったばかりのこの出来事について考えていた。
アンジェリークとは、身体の相性がいいのだろうとは思っていた。
だがこれは、相性がいいなんてレベルの話じゃない。
こんなすごいセックスなど、今までお目にかかった事が無い。
ゴムを着けたとか着けなかったとか、そんなのでは説明がつかないのだ。
沢山の女を喜ばせ、腕の下で喘がせてきた俺が、今は1人の女性とのセックスに夢中になっている。
まだ少女のような、天使のような可愛らしい存在に。

アンジェリークに視線を移すと、彼女はオスカーの頭を抱え込むようにしてぐったりと身を預けている。
こうやって体重をかけられていても、彼女は羽が生えているかのように軽い。
オスカーは目の前にあるアンジェリークの鎖骨にキスを落とし、くぼみを軽く舌で突いた。
彼女の身体がくすぐったそうに反応するだけで、もう下半身が反応を始めている。
たった今、あんなにすごいエクスタシーを味わったばかりだというのに。

1つだけはっきりわかっている事は、俺は当分の間、この可愛い天使とのセックスに溺れてしまうだろう、という事だ。
男女の中などいつどうなるかわからない、アンジェリークとも他の女同様、いつか別れる日がくるんだろうが。
----だが今は、飽きるまでこの肉体を組み敷いて、味わい尽くす事しか考えられない。

「お嬢ちゃん、今度こそベッドに行こう。ただし避妊具が欲しいからじゃない----」
オスカーはアンジェリークの耳に、笑うように囁いた。
「…今度こそ、ゆっくりベッドで横になって愛しあおう」

アンジェリークの顔が、ポっと赤みを帯びた。
セックスのすぐ後でもこうして可愛らしい反応を見せられて、オスカーはもう身体の奥に欲望の火を灯されたのを感じた。

そしてオスカーはベッドに戻り、ゆっくりと時間をかけてアンジェリークを愛撫した。
三たび繋がり、今度はずっとゆったり頂点に向かい、そしてようやく2人は眠りにつく。

互いに、満ち足りていた。

オスカーは、男の征服感と所有欲を満たされて。
そしてアンジェリークは、愛する男に抱かれる幸せと、自分が紛れも無く女である事の幸福感を同時に味わっていた。