Sweet company

7. Too Hot To Handle (3)

空が明るく白み始めた頃、オスカーは腕の中で動く暖かな気配を感じて目を覚ました。
気配のしたほうへ目をやると、あどけない寝顔のアンジェリークが寝返りをうちながらすやすやと規則正しい寝息をたてている。

時折むにゅむにゅと口の中で寝言を呟くその子供のような可愛らしい姿は、とてもじゃないが昨日一晩中自分と激しく交わりあっていた女性と同一人物とは思えない。
その安心しきったような寝顔を眺めているうちに、オスカーの顔に満足げな笑みが浮かぶ。

ようやくアンジェリークは、俺だけのものになったのだ。
手強くてなかなか手に入らない獲物だったが、ついに捕まえた。
さんざん苦労させられたがそれだけの価値はある。
思っていた以上に綺麗なボディーラインといい、抱き心地の良さといい、身体の相性といい…ここまで俺を夢中にさせてくれるとは、正直いって思っても見なかった。
この小さくて可愛らしい天使は、しばらくの間さぞかし俺を楽しませてくれる存在になるだろう。

オスカーは気怠い笑みを浮かべながら、自分の腕の中で丸くなっている白い柔らかな身体のカーヴをゆっくりと指でなぞっていく。
張りのあるヒップラインから折れそうに細いウエストへ、そして滑らかな背中から首筋をつたって胸元へ。
寝息とともに上下するまろやかな乳房をすっぽりと手のひらで包み込み、重さを確かめるように軽く撫で上げる。
するとアンジェリークが寝ぼけながらくすぐったそうに身体をくねらせ、尖り始めた乳首がオスカーの手のひらをつん、と押してくる。
途端にオスカーの感覚がはっきりと覚醒し、同時に男の欲望も目覚めだす。
オスカーはそんな自分に苦笑して指の動きを止めると、アンジェリークを起こさないようにそっと腕をほどいてからベッドを抜け出した。

夕べあれだけセックスした後だ、疲れているだろうから、もう少しゆっくり寝かせてやらなければ。
無理矢理自分にそう言い聞かせて、体内の熱を覚ますためにシャワーに向かう。
冷たい水を頭から浴びると、のぼせ上がっていた頭も身体もようやく落ち着きを取り戻してきた。

全く俺は、どうかしてる。
セックスを覚えたての10代のガキじゃあるまいし、あれだけ一晩中やりまくっておきながら、起きて彼女を見た途端に朝立ちとはな。
水栓をキュッ、とひねって水を止めると、ぶるるっと頭を振って水気を飛ばす。
身体を拭いたバスタオルを腰に巻き付けると、そのままいつもの習慣でコーヒーを入れにキッチンに向かった。

カプチーノメーカーに粉とミルクをセットしてスイッチを入れ、コーヒーができるまでの間に新聞でも読もうと玄関に向かう。
ドアに差し込まれた新聞を取ってキッチンに戻る途中、開いた寝室のドアの向こうで、ベッドの上のアンジェリークが動いたのがちらりと見えた。
「お嬢ちゃん、もう起きたのか?」
そう声をかけて寝室を覗き込んだオスカーは、思わずそこで足が止まってしまった。

薄暗い部屋の広いベッドの中央に、アンジェリークがこちらに足を向けるような格好で寝そべっていた。
裸体をシーツに包み、未だぐっすりとリラックスして眠っているが、暑いのか無意識に手足を大きくシーツから蹴り出している。
グレイッシュラベンダー色のフランネルのシーツの下から真っ白な足がにゅっと飛び出し、次いで上から張りのある乳房が覗く。
夕べはずっと固く立ち上がっていた乳首は、今は柔らかく弛緩して、薄桃色の乳輪に埋もれている。
シーツを僅かにウエストの辺りに絡ませた姿のまま、アンジェリークはころんと横向いて小さく丸まった。
途端に真ん丸いお尻が無防備にオスカーの目線の前に晒される。
しかも両足の付け根からは、普段は隠されているはずの、金色の淡い草むらに覆われた秘められた部分までもがはっきりと見えていた。



淫らな姿に、天使のようなあどけない寝顔。
昨日俺を一晩中包み込んでいた、熱くてきつい、あの場所。
オスカーの身体を電流が走り抜け、下半身が痛いくらいに張りつめる。
喉がからからに乾き、思わずごくりと生唾を飲みこんだ。
コーヒーの事などとうに忘れ、今すぐアンジェリークを自分の物にする事だけしか考えられない。
オスカーは手にした新聞を投げだすと、大股で足早にベッドに向かった。
腰に巻き付いていたバスタオルを落とすと、邪魔な物から解放されたオスカー自身が腹部に張り付くようにいきり立つ。

アンジェリークの身体に巻き付くシーツを素早く剥ぎ取ると、オスカーはその白い背中に覆い被さった。
ひんやりした白い肌に触れても、オスカーの全身の熱は冷めるどころかますます熱く沸騰していく。
それでも彼女は良く眠っていて、オスカーに背後から抱きしめられても起きる気配も見せなかった。
「お嬢ちゃん、起きろよ」
欲望に掠れた声で耳元で囁いてみる。が、アンジェリークは全く動かない。

「俺だけその気にさせておいて、起きないなんて許せないな」
オスカーは笑いながら片手を彼女の身体の下に差し入れ、乳房をゆっくりと揉みしだいた。
指で軽く乳首を弄ぶと、だんだんと固くなっていく乳首に引っ張られるように乳輪がすぼまり、淡いピンクの色が深みを増していくのが背中越しでもはっきりとわかる。
誘うように姿を変えていく乳房に魅入られながら、オスカーはもう片方の手でアンジェリークの太股を割った。
堅くなった一物を太股の間に差し入れると、腰を掴んで柔らかな襞に擦り付けるようにゆっくりと動かす。
「う……ん…」
僅かにアンジェの身体が反応しはじめるが、まだ意識は夢の中を彷徨っているようだ。
目を閉じたまま、微かに唇を開いて甘い吐息を時々洩らすだけ。

「はぁ…オスカー……」
眠っているはずのアンジェリークの唇から自分の名がこぼれ、思わずオスカーは動きを止めた。
後ろからアンジェの顔を覗き込むが、やはり彼女はまだ眠っている。
「俺の夢でも見ているのか?」
ひどく嬉しい気持ちになり、彼女のうなじや肩についばむような優しい口づけを落としていく。
感じやすい耳の後ろのくぼみを舌で突くと、アンジェリークの身体がびくん、と大きく反応した。

「ん…気持ちいぃー……」 寝ぼけているせいか、アンジェリークは昨日より素直に声を出して快感を伝えてくる。
その声にたまらなくなったオスカーが再び動きだすと、つられたように彼女も少しづつ腰を前後に振り始める。
秘芯からとろとろと熱い蜜が溢れだし、オスカーが腰を突き出す度にぬらりとした感触が下半身に纏わりつく。

これだけ身体が反応しているにも関わらず、アンジェリークはいまだ目を開けず、意識は半分夢の中を彷徨っているようだった。
「お嬢ちゃんはえらく寝起きが悪いんだな。そんなに夢の方が気持ちいいのか?」
問いかけるオスカーの声は上ずり、身体は興奮のあまり汗が滴っている。
一刻も早く彼女の中に入りたいという誘惑が絶え間なく襲っていたが、オスカーは必死にそれを押しのけた。

だめだ、まだ早すぎる。
もっとはっきりと彼女を目覚めさせ、これは夢じゃなくて現実なのだとわからせてやらねばならない。1つになるのは、それからだ。
まだ俺達はようやく付き合い始めたばかりで、アンジェリークの心の中にはまだ、前の男の影が残っているに違いない。
そいつの事を綺麗さっぱり消し去ってやるためにも、彼女の意識にも身体にも、俺という存在をはっきりと刻みつけなければ。

オスカーはアンジェリークの腰を掴んでいた手を外すと、腕を前に回して滑らかな腹部から続く草むらに指で分け入った。
小さな突起を探り当て、それを軽く押すようにしながら指を震わせる。
「あ……ぅん…っ…」
途端にアンジェリークの声が高くなり、腰の動きも大きく波打つようなものに変わる。

「アンジェリーク、俺が欲しいか?」
耳元で問いかけられる声に、目を閉じたままのアンジェがこくこく、と頭の動きだけで必死で頷く。
「だめだ、ちゃんと口に出して言うんだ」
オスカーの指の動きが早くなる。
「は…だめ…ぇ、イっ…ちゃう……っ…!」

アンジェリークの背中が反り始め、下半身に力が入って固くなる。
オスカーの物を挟み込んだ太股がきつく締まり、思わずオスカーも達しそうになったが、歯を食いしばってなんとか堪えた。
そのままアンジェが絶頂に達する直前で動きを止めると、足の間に挟まっているペニスを引き抜く。

絶頂の直前で動きを止められたアンジェリークは、宙ぶらりんにされた快感に身体を震わせ、はぁはぁと肩で大きく息をしていた。
「やめ…ないで…お願い……!」
そう言いながら必死に尻を突き出して、オスカーの腰に押し付けようとする。
もうだいぶ意識も起きだしているようだと判断したオスカーは、もう一度指をクリトリスに軽く触れさせた。
「あ……っ!」
触れるだけで動かないオスカーの指に、焦れたようにアンジェリークが身体をくねらせる。
「俺が欲しいなら正直に言うんだ。入れてほしいんだろう?」
そう言いながら充血した突起を軽く2、3度押すと、それだけでアンジェリークの身体が大きく跳ね上がった。
でもまた、絶頂の寸前で指はするりと逃げていき、濡れた花びらのまわりや足の付け根の辺りを軽くさすられるだけ。
「言うんだ」
優しく、でも有無を言わさないような口調でオスカーが囁き、アンジェリークの耳に舌を差し込んでくる。
熱い吐息とともに舌を出し入れされているうちに、アンジェリークの頭の中は真っ白になっていった。

いつもならそんな恥ずかしい台詞は口に出せないはずなのに、半分寝ぼけた状態で絶頂の直前まで連れてこられてしまった今のアンジェリークには、まともな思考も羞恥心も既にない。
とにかく早くオスカーで満たされたい。今すぐ。何でもいいから、早く。
「来て…ぇ…」
寝起きのか細い声をようやくの思いで絞り出す。
「なんだ?聞こえないぜ、もっとはっきり言ってみな」
意地悪く聞き返してくるオスカーに、アンジェリークはシーツを掴むと必死で叫ぶように懇願した。
「お…願い、オスカー…、いじわるしないで……挿…れて…!」
まだ目を閉じたまま恥ずかしい言葉を口にするアンジェリークを見て、オスカーは満足げに低く笑い声を上げた。
「本当にぞくぞくする程可愛いな、お嬢ちゃんは」
彼女の耳から舌を引き抜くと、いきなり首の敏感な筋に歯を押し当てて甘噛みした。
「ひゃうぁっ!」
アンジェリークの目が、その刺激でぱちりと開く。

「おはよう、お嬢ちゃん」

次の瞬間、オスカーは後ろから一気にアンジェリークを貫いた。
「きゃあぁんっ!」
オスカーは猛り狂う自身を根元まで深く納めると、反り返った彼女の背中を強く抱きしめて動きを止めた。
昨日、何回も交わった後だというのに、その中はまだ信じられないくらいにきつい。
強く握りつぶされるようなその圧迫感を、オスカーは息を詰めて味わった。

何度もセックスした後でもこのきつさだ。
これじゃあ初めての時は、彼女も相手の男もさぞかし苦労しただろうな。
ふと浮かんだその考えに、オスカーの心の中の何かがちくり、と痛んだ。

何だ?今の感情は。

しかし、オスカーにはその感情をゆっくり分析する時間がなかった。
絶頂を延ばしに延ばされたアンジェリークが、耐えきれずに腰を激しく振り始めたからだ。

オスカーももう、冷静に物を考えている余裕などなくなってしまった。
身体を起こして膝立ちになると、うつぶせにしたアンジェリークの腰を掴んで高く持ち上げ、力一杯打ち付ける。
まん丸いヒップがオスカーの身体を押し返すように跳ね上がり、動く度に繋がった部分がめくれあがって蜜が溢れるのがハッキリと見える。
その光景を眺めているだけで、もう頭の中が沸騰して何も考えられない。

「あ…あ、あ…、ぁ…、も、もぅ……ダメ………ッ!」
シーツを掴んだアンジェリークの両手に力がこもり、枕に埋められていた顔が上向いた。
次の瞬間には全身がびくんびくんと波打ち、オスカーと繋がっている部分がきつく収縮を繰り返す。

オスカーは最奥に自身を納めたまま動きを止め、痛みと紙一重の快感をじっと味わった。
我慢の限界まで耐え抜くと、まだヒクつく彼女の中に熱いものをほとばしらせた。
喉の奥から掠れた吐息が洩れ、アンジェリークの白いヒップに指が強く食い込む。
そのまま2人とも重なるようにくずおち、荒い息で身体を弾ませたまま身動きする事も出来なかった。

「ゆっくり寝かせてやろうと思ってたはずなんだが…一体どこでこうなっちまったのやら、だな」
掠れた声で笑いながら、オスカーはようやく身体を起こしてアンジェリークの隣にごろり、と仰向けに転がった。
「私も…なんでこうなったのか、全然記憶がないんだけど…」
息も絶え絶えにアンジェリークも答える。

そんな彼女に、オスカーはにやりといたずらっぽい笑みを向けた。
「なんだ、覚えてないのか?お嬢ちゃんが俺を誘惑してきたんだぜ」
「へ?わ、私が??だだだって、私ぐっすり寝てたと思うんだけど…」
「お嬢ちゃんは俺の夢を見てただろう?それも超ド級のいやらしいヤツをだ」
アンジェリークは一瞬きょとんとした表情になり、数秒おいてから「あ…」と一言だけ発して真っ赤になった。
確かに記憶の片隅に、オスカーとセックスしている夢を見た記憶がある。
「な、なんでオスカーがそれを知ってるの?」

オスカーは笑いを噛み殺すと、しれっとした表情で先を続ける。
「どうもお嬢ちゃんは夢の中ではずいぶん積極的になるみたいだな。大胆なポーズを取ってみたり、エッチな寝言で俺におねだりしてきたんだぜ」
「う、うそ……」
「うそじゃないさ。自分でも覚えがあるんじゃないか?」

そう言われて、アンジェリークは必死で記憶の糸を手繰り寄せた。
ぼんやりとした夢の映像が浮かび上がり、オスカーに背後から抱きしめられて愛撫されている姿が次第に鮮明になってくる。
しかもその夢の中で「気持ちいい」だの「挿れて」だの、とんでもなく恥ずかしい事を言っていたような覚えもある。
でも、その夢がいつから現実になっていたのかがよくわからない。
私ったら夢の中で言ってた事を、寝言で口に出してオスカーを誘っちゃってたのかしら?

「いやーーーん!」
恥ずかしくて、オスカーの顔がまともに見れそうになかった。
アンジェリークはシーツを掴むと、それを巻き付けるようにして顔を隠しながらオスカーに背を向けた。
だが隠しきれなかった白いヒップがちらちらとシーツから覗き、オスカーはまたも目がそこに釘付けになってしまう。
ヒップの割れ目の奥から放ったばかりのオスカーの精が零れ、内股を濡らしているのを見るだけで、原始的な本能が強烈に刺激されて、再び欲望の証が頭をもたげていく。
困った物だが、彼女は自分の身体がどんなに俺をそそっているのか、全くわかってないらしい。
「お嬢ちゃん、頼むから頭よりこっちを隠してくれよ。このままじゃ、また誘惑されそうだ」
オスカーは欲望を振り払うようにわざと声をあげて笑うと、アンジェの白いお尻をぴしゃん、と軽く叩いた。

「きゃっ!」
びっくりしてシーツから顔を出したアンジェに、オスカーが手を差し伸べる。
「俺はさっきシャワーを浴びたんだが、もう汗まみれなんでもう一度浴びるよ。なんならお嬢ちゃんも一緒に入るか?」
シーツにくるまったままアンジェリークは差し出された手とオスカーの顔を交互に見やり、しばらくじっと考えてから小さく首を横に振った。
「ううん、いい…なんだか今一緒に入ったら、仕事に遅れちゃいそうな気がする…」
言っちゃってから、自分の発言の大胆さに気がついて思わず赤面した。
やだ、これじゃシャワールームでHするのを前提に言ってるようなものじゃない!
でも時すでに遅く、オスカーは大きく仰け反って笑い出していた。
「ずいぶん期待されてるんだな。これじゃ俺も身体が幾つあっても足りないよ」

オスカーはベッドからするりと抜け出すと、まだくすくす笑いを納めないまま床に落ちていたバスタオルを拾って歩き出した。
「じゃあ俺は先にシャワーを浴びてるから、お嬢ちゃんも気が向いたら来るといい。仕事には遅れないようにちゃんと気をつけてやるから」
「そ、そういう意味じゃないもん!」
思わず反論すると、オスカーはまた大きく笑い出した。
何だかまた子供扱いされてるようで、アンジェはむっとして手元の枕を掴んで投げ付けた。
「おっと」
オスカーはひらりとドアの向こうに足を踏み出すと、素早くドアを閉める。
枕はばふんとドアに当たり、情けない形に潰れて床に落ちた。

八つ当たりにドアに向かってべーーーっと舌を出すと、突然かちゃりとドアが開いてオスカーが再び顔を覗かせた。
「まだ時間はたっぷりあるから、シャワーの後に家まで送っていく。着替えもしたいだろ?」
舌を出したままびっくりして固まっているアンジェリークを見て、思わずまたぷっと吹き出す。
「それから会社の近場のカフェテリアで一緒に朝食を取ろう。俺はもう運動のし過ぎで腹ぺこなんだ」
言う事だけ言うと、オスカーはまだくっくっと小さく笑いながらもう一度ドアの向こうに消えた。
次いで彼の楽しそうな鼻歌までもが小さく聞こえてくる。

「もうっ、オスカーったら!一緒に出社して朝食なんて食べてたら、すぐに会社中の噂になっちゃうじゃないの!」
もうオスカーには聞こえてないのはわかっていたが、それでもアンジェリークは頬をぷっと膨らませて怒ってみた。
でも別に、そんな事オスカーには些末な事なんだろう。
彼にとって女性と浮き名を流したり朝帰りの現場を見られるのはきっと日常茶飯事。
取りたてて騒ぐ程の出来事でもないというのを、思い知らされたような気がした。

そしてきっと、今日中にも社内中に噂が広まる。
「オスカーの恋人リストが、また一行増えたらしい」と。
彼の恋人リストは1ヶ月もしないうちに新しく書き換えられていくのも周知の事実だから、1ヶ月後には私も確実に「オスカーの元恋人」と呼ばれているに違いない。

でも、そんな事最初からわかってたんだから、後悔なんかしない。
例え短い間だけでも彼の愛情を一人占めしたかったから、自分でこの道を選んだんだもの。

彼は今までと毛色の違う獲物を苦労して手に入れたから、しばらくは私を大切にしてくれるだろう。
でもそのうち、私に飽きて他の女性を抱くようになる。
もうバッドエンディングがわかってるストーリーを選んじゃったんなら、せめて彼と過ごす「今」をハッピーに過ごしたい。
アンジェリークは両の手をぐっと握り、「よーしっ!」と気合いをつけると勢い良く立ち上がった。

そうと決まったら、1分1秒だって無駄にはしたくない。
1ヶ月という残された時間の砂時計は、すでにさらさらと音を立てて流れ落ちている。
恥ずかしがったりしてる時間があったら、少しでもオスカーの側にいたい。

アンジェリークは裸のまま寝室を飛び出すと、オスカーのいるシャワールームに飛び込んでいった。