Unforgettable Dream

第3話・忘れられない夢

アンジェリークはカーテンの奥から顔だけを覗かせるようにしながら、目の前で起こっている信じられない光景を見つめていた。
足はがくがくと震え、カーテンをきつく握りしめる手が汗ばみ始めている。
顔は火がついたように熱く感じ、もはや鼓動は自分で自覚できない程に早い。

だって現実の自分は、オスカーさまに愛を伝えてさえいないのだ。
キスどころか、手を繋いだ事だってない。
なのに、今目の前にいる二人---オスカーさまと、未来の私---は、あられもない姿で抱き合い、もう何度も愛しあっているのを感じさせる程、大胆な動きでお互いを求めあっている。

オスカーさまの裸身を、こうして自分が目にしている事だって、にわかには信じられない。
いつも守護聖の正装---甲冑やら、マントやら---に包まれた姿は、その奥に鍛え向かれた肉体が存在する事を感じさせてはいたけれど、ストイックなまでに肌が隠されていて、顔と、微かに覗く首筋と、指先と…それしかオスカーさまの肌を見た事はない。
それが今、一糸纏わぬ姿で突然自分の前に現れたのだ。

すごく恥ずかしいのに、目が逸らせない。
オスカーさまの体は自分が想像していたより、ずっと逞しくて。
黄金色の肌はぴんと張り詰めていて、動く度に鍛えられた筋肉が肌の下で滑らかに動くのが見えて。
無駄なものが何ひとつ無いくらい削ぎ落とされた美しさが、そこにはあった。
男の人の身体がこんなに綺麗だなんて、思ってもみなかった。

そのまま視線は彼の首筋から肩、盛り上がった厚い胸板から、割れた筋肉に覆われた鋼のような腹部へと下りていき、その下の1点で止まった。
天に向かって反り返る、猛々しいまでに凶暴な彼自身。
それは今まで自分が知っていた物とは、あまりにも違い過ぎていた。

子供の頃、よくパパと一緒にお風呂に入った。
その頃も、自分ともママとも違うパパの身体を不思議に思っていた。
スモルニィに入る前、共学のジュニアスクールで、男の子達がふざけて裸でプールに飛び込むのも見た事がある。
でも、今目の前にあるオスカーさまのそれは------そのどれとも全然違う。
張り詰めたように大きく、それ自身に意思があるかのように蠢いていて、何だか…少し恐ろしい、とさえ思う。

オスカーさまが女王の胸元に柔らかく唇を這わせ、その桜色の先端を舐め、吸い上げると---女王である自分が、自分でも聞いた事のない程切なげで淫靡な吐息を洩らす。
あれは間違いなく私だとも思うのに、同時に自分だとは信じられないような気持ちも沸き起こる。
本当にこれは、未来に起きる現実なのだろうか?

女王の身体は、今の自分よりだいぶ成熟して、身体の線が丸みを帯びた大人の女性のものになっている。
顔はそんなに変わっていない気もするけれど、若干頬がそげて、腰のあたりまで伸びた長い髪が大人びた雰囲気を一層強めている。
自分であるはずなのに、自分以外の女性をオスカーさまが抱いているようにも感じて、息が苦しくなった。

なのに、オスカーさまが女王の胸を揉みしだき、むしゃぶりつくように舐め上げているのを見たら…何故か自分の胸までも、先端が張り詰めてきてちくちくと針を刺すような痛みを覚える。
その感覚が何なのかわからなくって、思わず制服のブラウスの上から自分の胸をそっと触ってみた。

「ん……っ!」
途端にその場所から甘い痺れが走り抜け、女王が発しているのとそっくりな、淫らな響きの声が自分の口から小さく洩れる。
やっぱり…あれは紛れもない、私なんだ。
そう思った途端、オスカーさまの舌が自分の胸をも愛撫しているようにも感じられて、どんどん自分の胸に意識が集中していく。
目線は抱き合う二人から離せないまま、彼の舌の動きと同じように自分の胸を弄ってみる。
ブラウスの上からでもはっきりと、自分の乳首が固く立ち上がっているのがわかる。
触っている部分から不思議な熱が沸き起こり、瞬く間に身体中に広がっていく。

オスカーは尚も、女王の胸を片手で掬い上げるように揉みしだきながら、舌でその先端を弾いたり、時折音を立てて吸い上げたりしている。
そしてもう片方の手がウエストラインをなぞるように滑り下りていき、下着と内腿の境目あたりを軽く撫で上げる。
くすぐるような微妙なタッチで何度もオスカーの手が上下する度に、女王の身体が小さく震えた。

「あん……オスカー、お願い…、そんなに焦らさないで……っ」
オスカーは女王の胸元から顔を上げると、小さく笑いながらもう一度口づけて、その言葉を塞いだ。
そのまま、いきなり指を下着の中に潜り込ませる。

「ふ……ぅんっ………!」
女王の背中が突然大きく反り返り、塞がれた唇から苦しげな吐息が洩れる。
オスカーの指が、下着の内側でゆっくりと動き回っているのが見える。
くちゅくちゅと粘り気のある水音が、指の動きに合わせて聞こえてくる。
薄いレースの布地に隠されて、その中では何が起こっているのかアンジェリークにはよく見えなかったが、それでも自分の下半身にもじんわりと熱が広がってくるのがわかる。

「すごいな……もう、こんなに濡れてる……」
オスカーに耳もとで囁かれ、女王はやっと自由になった唇から再び甘い声を発し始めた。
「あ……い、いや……そんなに動かさないで…変になっちゃ…う……!!」
女王はオスカーの首に腕を回してしがみつくと、紅潮した顔をいやいやするように振り乱し、腰を前に突き出してオスカー自身に押し当てる。
その強請るような動きに、オスカーが小さく笑みを零した。
「もう、我慢できないのか……?」
「だ…って…ずっと、逢え…なかったんだもの…」

オスカーは女王の身体を壁際に押し付け、自分は素早く身を屈めた。
小さな下着を足から抜き取ると同時に、女王の片足を自分の肩に乗せるようにする。
女王の下半身が露になり、オスカーの目の前に晒されるのを見て、アンジェリークは自分の方が恥ずかしさにいたたまれないような気持ちになってしまった。

自分の秘部がどうなっているのか、思春期の好奇心から鏡に写してみた事がある。
大人っぽいロマンス小説とかには『薔薇のような』とか書かれていたけど、自分が見たそれはとてもそんな綺麗な物ではなくて、むしろものすごくグロテスクな感じがして、気分が悪くなってしまった。
もしかして自分だけがこうなんだろうか、他の人はちゃんと薔薇のように綺麗なんだろうか、とか悩んでしまった事もある。
みんな同じような物らしいとわかった時はホッとしたけど、それでもあのグロテスクな物がオスカーさまの眼前に晒されているのだと思うと泣きたくなる。

女王も恥ずかしそうに顔を赤らめ、泣きそうな瞳でオスカーを見つめているが、それでも隠そうとするそぶりは全く見せない。
オスカーは愛おしげに女王の秘部に視線を這わすと、濡れそぼって溢れ出る蜜をゆっくりと指で掬い上げ、再び蜜壺の中に指を侵入させていった。
「はぁ………んっ!」
女王の身体が一瞬硬直したようにこわばり、両手が壁際のカーテンを強く握りしめる。

オスカーは構わず大きく指を抜き差ししたり、震わすように小刻みに動かす。
その度に女王の腰がオスカーの動きに合わせて、大きく揺らぐ。
「そんなに俺が、欲しかったか……?」
囁くようなオスカーの声に、女王は濡れた瞳をうっすらと開き、喘ぎながら答えた。
「いじわる……そんなの、聞かなくても…わかるでしょう?」

だがその声に顔を上げたオスカーの瞳は、思いがけない程苦しげで、切ない色が滲んでいる。
それから掠れた声で絞り出すように、言葉を発した。
「たとえわかりきった事でも、俺は君の口からそれを聞きたい………。俺と同じくらい君も求めてくれていたと思えれば、離れている時間も乗り越えられるんだ…」
オスカーの切ない視線を受け止めた女王の瞳に、僅かな驚きが広がり、それは徐々に優しい慈愛の色へと変わっていく。
そのまま女王は、片手でオスカーの頭を自分の身体のほうへと引き寄せると、優しく髪を撫でつけた。
「私だって………ずっとオスカーと会いたくて、抱きしめて欲しくて、一つになりたくて、寂しかった……。次に会える日まで、あなたの全てを覚えていられるように、いっぱい、いっぱい愛して欲しいの………」

「ああ、忘れられなくしてやるさ……」
オスカーの瞳がほんの一瞬幸福そうな色を孕み、そのまま女王の秘部へと顔が埋められた。
次の瞬間、オスカーは舌を女王の花芽に押し当てるように舐め上げながら、体内を掻き回すように激しく指を上下させた。
女王は激しく身体を反り返らせ、オスカーの赤い髪に埋められた指が震えている。

アンジェリークはカーテンの影で、下半身から立ち上ってくる初めての疼きに戸惑っていた。
自分の恥ずかしい場所を、オスカーさまに舐め回されている。
堪え難いくらい恥ずかしい行為のはずなのに、なぜか嫌な感情はない。
それは、自分ではグロテスクだとばかり思っていたあの場所を、オスカーさまが愛おしいものを見るように見つめ、大切に愛してくれているのが伝わってくるからだ。

頭が変になりそうな下半身の疼きに耐えかねて、アンジェリークはスカートの中に手を差し入れ、下着の上から今オスカーが舐めている、その場所に触れてみた。
(やだ、私……濡れてる………?)
そこは下着の上からでもはっきりわかるくらいぐっしょりと濡れそぼっている。
下着の上から触った瞬間、もどかしい疼きに変わって、甘い感覚が昇ってきた。
でもそれはほんの一瞬で、すぐにもっと強い疼きが覆い被さってくる。
いつのまにかアンジェリークの指は、甘い感覚を求めて下着の上で大きく動き始めていた。
「はっ、はあっ………」
息がどんどん荒くなるのに、疼きはどんどん激しさを増すばかりだ。

その時、女王が突然オスカーの頭を両手で押さえ付けるようにしがみつき、ひときわ高い声を上げた。
「あっ、あぁ…………も、ダメ、いっちゃ…う…オスカー……ぁ、ああぁっ!」
白い喉を大きく晒して仰け反り、身体を痙攣させながら壁際をずるずると落ちていく女王の身体をオスカーが抱きながら支え、そのまま痙攣がおさまるまで腕の中で落ち着かせると、ゆっくりと抱き上げてベッドまで運んでいった。

そっとベッドに下ろされた女王は、肩で大きく息をしながら、潤んだ瞳でオスカーを見つめている。
オスカーはその上に覆い被さるように横たわると、汗に濡れて額に張り付いた金の髪を掻き分けてやりながら、優しくキスを落とした。
女王の息遣いが落ち着いてくると共に、だんだんとキスは深まっていき、再び甘い吐息がその唇から洩れてくる。

「オスカー………愛してる……」
「アンジェリーク………俺もだ。君をこうして抱きしめていられなくなったら……俺はきっと、気が狂う……」
オスカーの切ない声に、女王は思わずぎゅっと背中に回した手に力を込めると、上半身を起こした。
「オスカー、今度は……私にも、あなたを愛させて?私がどれだけあなたを欲しかったか、知ってほしいの……」

顔を仄かに赤らめながら恥ずかしそうに囁く女王の言葉に、オスカーは嬉しそうに目を細め、仰向けに身体を反転させて大きなピローにゆったりと背中を凭れかけさせた。
女王はオスカーの上に馬乗りになるように跨がると、そのままゆっくりと、オスカーの身体中にキスを落としていく。
額に、頬に、唇に。
耳に、首筋に、肩に。
そのままオスカーの腕をとって、自分の胸ごと擦り付けるように頬ずりしながら、指の一本一本まで丁寧に舐め上げていく。



その女王の大胆な動きに、アンジェリークは驚いた。
あんな事を女の方からして、はしたなくはないんだろうか?
でも、そんな女王を見つめるオスカーさまの瞳には、欲望と興奮だけじゃなくて…見た事もないような幸福感が滲んでいる。
オスカーさまは、私にああいう風にされて、幸せ…なの?

女王はよつんばいの体勢のまま身体を下にずらし、オスカーの長くて真直ぐな脚にも舌を這わせる。
そのまま内股に舌が辿り着くと、オスカーの身体がびくりと震え、太腿に力が入っているような筋肉の筋が浮かび、口からは満足げな吐息が洩れた。
その吐息を聞いた女王は、顔を上げて嬉しそうに小さく微笑んだ。
「オスカー……気持ちいい?」
「ああ……君は、最高だ………」

その声に後押しされたように、女王は目の前に立ち上がるオスカー自身に手を伸ばした。
細くて白い指が、楽器を奏でるように柔らかく上下に動き始める。
これ以上大きくなるのは不可能に思えたオスカーのそれは、女王の手の中で脈打ち、さらに大きさを増していく。
女王は蕩けるような瞳でそれを見つめると、迷いなくその場所に舌を滑らせた。
小さなピンク色の舌がちろちろと動く度、オスカーが軽く目を瞑り、眉根を寄せる。

時折女王は上目遣いにオスカーの表情を覗き見て、感じているのを見て取ると、顔の周りに落ちてくる金の髪を指で掻きあげてから、欲望の証を口に含み始めた。
小さな口には、とてもオスカーのものは入りきらない。
苦しげな表情を浮かべながら、それでも女王は少しでも深くオスカーを銜えこもうと、手を添えてゆっくりと唇で包み込んでいく。

アンジェリークは、今度こそ本当に驚いてしまった。
私が、男の人のアレを、口に入れている?

自分は17歳の女の子としては、ちょっとそう言う方面に疎い方かもしれないとは思う。
でももちろん、男の人と女の人がどうやって愛しあうかって事ぐらいは知っている。
そうは言っても、その知識はロマンス小説や映画で得た物や、ちょっと早熟な同級生から聞いた話ばかり。

本や映画では、裸の男女がシーツの中で抱き合ったりキスをしたりするシーンはあっても、そのシーツの中では何が行なわれているかまではわからない。
一番直接的な知識は、経験済みの友人からの話なんだけど。
最初はすっごく痛いらしいとか、自分が想像してたよりずっと変な格好で繋がるんだとか、男の人のものはグロテスクな感じがしたとか。
そんな話を聞いてはいても、実際にこうして目の前で見ると、自分の想像がいかに可愛い物だったのかを思い知った。

ましてや男の人のものを口に銜えるなんて、普通の男女の愛の行為ではなくて、ポルノとかの別世界の話だとばかり思っていた。
でも今、こうして見ていても---そんなに不潔な行為だとは感じない。
オスカーさまのものは、少し恐くはあったけど、汚いとは思わない。
女王である自分が、オスカーさまの全てを必死に愛そうとしているのが、伝わってくる。

女王は、苦しさに涙を浮かべながらも、懸命に頭を上下に動かしていた。
オスカーさまの手が女王の乱れた金の髪に差し入れられ、その指に力が入って髪をぎゅっと掴む。
「う………っ」
頭を後ろに倒すようにのけ反らせ、喉の奥から掠れた呻き声と荒い息遣いを漏らす。
その表情は、今まで見た事がないくらい苦しげで、なのに…この上なく幸せそうにも見えた。

オスカーさまは、感じているんだ。
そう思った瞬間、自分の秘部がきゅっ、と強く収縮して、思わず身を屈めた。
下着の上から触れているのがもどかしくて、指を下着の中へと侵入させていく。
頭の片隅で『こんな事、しちゃいけない』と言う羞恥の声が微かに聞こえて、動きが止まった。
だけど強い疼きと共にお腹の下の方が燃えるように熱く膨張して、この熱を逃がさないと子宮が破裂してしまいそうだ。
息も止まりそうなこの苦しさは、どうすれば治まるの?
ああやってオスカーさまに愛してもらえたら、この焼け付くような疼きから逃れる事ができるのだろうか。

オスカーは上体を起こして手を伸ばすと、女王の柔らかな乳房に触れ、尖った先端を指で摘み上げる。
同時に膝を軽く曲げ、女王の股の間を擦るように刺激した。
「はぁ…ん!」
刺激に堪り兼ねたように女王は仰け反り、そのはずみで口からオスカー自身を外してしまう。

「……もう俺も、我慢できないな………君の中で一つになりたい…」
そう言うが早いか、オスカーは四つん這いの女王を軽々と抱え上げ、自分の腰の上に跨らせた。
そのまま屹立した自身に女王の身体を一気に沈める。

「ああぁっ!!」
いきなりの挿入で叫び声を上げる女王をなだめるようにオスカーは動きを止め、目を閉じて熱い感触をゆっくりと味わった。
繋がっている部分が小刻みに震え、互いの身体に汗が滲む。
やがて堪えきれないように女王の腰が前後に揺れ始めると、オスカーもその細い腰を掴み、自らも下から力強く突き上げていく。
女王は必死でオスカーの背中にしがみ付き、爪を立てて苦しげに身を捩る。
二人の荒い吐息に、じゅぷじゅぷと淫らな水音が絡んでいく。
律動を繰り返しながらオスカーは女王の肩に顔を埋め、華奢な背中をきつく抱きしめた。

「ああ……オスカー、好き、あ…いしてるの………」
揺さぶられながらすすり泣きのような声を洩らす女王の唇に、オスカーが身体を隙間なく密着させたまま激しい口づけを交す。
女王の目からは歓喜の涙が溢れ、甘い喘ぎ声が口づけに飲み込まれていく。

アンジェリークは目の前で激しく愛し合う二人の姿を、とても---綺麗だ、と感じていた。
いつか映画で見たような、シーツの中で優しく抱き合うロマンティックな物とは全然違っているのに。
もっと生々しくて、以前の自分ならきっと目を背けていたに違いない。
それでも今あの二人から感じる物は、純粋な愛情と、互いを求めあう気持ちだけ。
愛しあって、信頼しあっているからこそ、互いの全て------恥ずかしいところも、何もかも---を曝け出せるのかもしれないのだという事が、漠然とだけど理解できた。

もうアンジェリークの頭に残っていた僅かな理性と羞恥は吹き飛び、下着の中で動きを止めていた指は、再び淡い草むらの奥へと進んでいく。
熱く濡れる中心に辿り着いた時、激しい快感に導かれるかのように、自然に指が中へと飲み込まれ、二人の動きにあわせるように抜き差しを繰り返す。
さっきまで感じていたもどかしいような疼きが、外に向かって一気に解放されていく。
たまらずにブラウスの裾をスカートのウエストから引き抜くと、ブラジャーの中にもう片方の手を差し入れ、彼がしていたのと同じように乳房を強く揉みしだいた。

「あ……ぁっ、オ…スカー、私、もう…!」
女王の声に切実な響きが混じり、首ががくんと後ろに倒れて白い喉がオスカーの眼前に晒される。
クライマックスは目前だと言うのに、オスカーはそこで急に動きを止めた。
女王の金の髪に手を差し入れて彼女の顔を起こし、その潤んだ碧の瞳をじっと見つめる。
「止……めないで、お願い…!」
はぁはぁと乱れた呼吸のまま、女王は泣き出しそうな顔でオスカーを見つめ返した。
オスカーも荒い息遣いで胸板が大きく上下していたが、その瞳の奥底には暗い絶望が浮かんでいる。

「…終わったら俺は、すぐに帰らなきゃならない。まだ終わりたくない、離れたくないんだ。君をこのまま抱きしめて、女王も守護聖も関係ないどこかへ、連れ去っていけたら……!」
オスカーの思い詰めたような瞳に、女王は息を飲む。
「わかっているんだ、俺がこの宇宙から連れ去っても、君は幸せになどならない事も。それでも俺は、考えてしまうのをやめられない----」

女王はオスカーの背中に回した腕に力を込めてぎゅっと抱きしめると、その肩に顔を埋めた。
「オスカー、あなたにそんなに愛されて、私は……本当に幸せ者ね」
彼の背中が震えているのを、なだめるように手のひらでゆっくりと撫でる。
「私はこの宇宙と離れる事は出来ない、その道を選んだのは他ならぬ私なんだもの。でも…今この瞬間だけは、私は女王じゃなくて…ただの、アンジェリークなの。あなただけの…」
女王はオスカーの頬に両手を添えて顔を傾け、そっと口づけた。
オスカーは喉の奥から小さな呻き声を溢し、深く口づけを返す。
すぐに口づけは情熱を取り戻し、深く互いの唇を貪り合う。
下半身はまだ繋がったままで女王の上体をベッドに横たえて、オスカーは上から覆いかぶさった。

もう、二人を止めるものは何も無かった。
オスカーは女王の両脚を高々と持ち上げて自分の肩に乗せるように抱え込み直すと、全体重をかけて打ちつける。
残された僅かな時間を愛し合う為だけに使うべく、性急で力強いリズムが刻まれていき、女王の口から甘い悲鳴が漏れた。
オスカーも掠れた声で女王の名を呼び続ける。
「ああ…アンジェリーク、君は…俺の全てだ……」

その声が、まるで自分に向けられているようだ、とアンジェリークは感じた。
操られるように自分の両手を動かしながら、オスカーさまに愛されるのって、こんな感じなんだろうか…と、アンジェリークは初めて訪れる未知の快感に酔いしれながら、白くなる意識の底で思っていた。

「オスカー、オ…スカー、あ…………あああぁぁっ!」
突然、女王の身体が反り返りながら激しく痙攣した。
その身体をきつく抱きしめながら、オスカーの身体もぶるっと大きく震えた。

同時にアンジェリークも、自分の体内の熱が爆発して外に放出されていくのを感じていた。
自分の指がびくびくと痙攣する膣に締め上げられ、胸に添えられた手は食い込むほど強く乳房を掴んでいる。
激しい快感に立っている事も出来なくなり、よろよろと床に崩れ落ちた。

そのまま意識が白く濁り始め、消えゆく視界の中で、オスカーが愛おしそうに女王の額に口づけているのが---ぼんやりと見えた。